◆プロバイダの刑事責任

《 個人の権利侵害とプロバイダ責任 》

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◆プロバイダの刑事責任

 プロバイダ責任制限法は、民事責任の制限に関する法律であり、刑事責任には適用されない。ただし、個人の権利利益を保護する刑罰については、民事責任と刑事責任とが同時に問題となることがあり、その場合に、民事責任が生じないのに(より厳しいはずの)刑事責任が生じることには違和感があるため、刑事責任を論じる際には、民事責任における議論やプロバイダ責任制限法とのバランスも念頭に置かれている。

 プロバイダ等の刑事責任が問われる主な犯罪としては、名誉毀損(刑法230条)や児童ポルノ提供罪(児童ポルノ禁止法7条6項)のように個人の権利利益を保護するための犯罪に関する場合もある一方で、わいせつ物頒布等の罪(刑法175条)のように社会的な法益を保護するための犯罪に関する場合もあるが、プロバイダ等の刑事責任については基本的に同様の議論があてはまるので、以下では特に区別はしない。

 プロバイダ等の刑事責任が問われる場合としては

  • ①犯罪行為にプロバイダ等の積極的な関与が認められない場合
  • ②積極的関与が認められる場合

がある。

 ①は、電子掲示板等の運営者が違法な情報の投稿を削除することなく放置するような不作為の場合である。このような場合、違法な情報が投稿された時点で発信者について犯罪は完成しているから、事後的にこうした情報の存在を知り、それを単に放置していただけではプロバイダ等に犯罪は成立しないと考えられている。

 ②については、電子掲示板等の運営者が違法情報の投稿をユーザーに積極的に呼びかけていたような場合が想定される。様々な具体例に応じて判断は異なりうるが、最高裁の判断のあるものとしてFC2事件がある(最決2021年2月1日刑集75巻2号123頁)。最高裁は、「被告人両名及びZ〔無修正アダルト投稿動画サイト運営会社とその代表者〕は、本件各サイトに無修正わいせつ動画が投稿・配信される蓋然性があることを認識した上で、投稿・配信された動画が無修正わいせつ動画であったとしても、これを利用して利益を上げる目的で、本件各サイトにおいて不特定多数の利用者の閲覧又は観覧に供するという意図を有しており、前記のような本件各サイトの仕組みや内容、運営状況等を通じて動画の投稿・配信を勧誘することにより、被告人両名及びZの上記意図は本件各投稿者らに示されていたといえる。他方、本件各投稿者らは、上記の働きかけを受け、不特定多数の利用者の閲覧又は観覧に供するという意図に基づき、本件各サイトのシステムに従って前記投稿又は配信を行ったものであり、本件各投稿者らの上記意図も、本件各サイトの管理・運営を行う被告人両名及びZに対し表明されていたということができる。」「そうすると、被告人両名及びZと本件各投稿者らの間には、無修正わいせつ動画を投稿・配信することについて、黙示の意思連絡があったと評価することができる。」として、サイト運営者には、わいせつ電磁的記録媒体陳列罪及び公然わいせつ罪の各共同正犯が成立するとした。

 このように、刑事責任については、プロバイダ等の積極的関与があった場合に限ってそれを認めるのが基本的な考え方である。また、犯罪行為を直接行うのは投稿者等であってプロバイダ等ではないから、刑事責任が成立する場合であっても、プロバイダ等に単独正犯が成立することはなく、共同正犯あるいは幇助の責任が問われることになる。

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