《 個人の権利侵害とプロバイダ責任 》
◆大規模プラットフォーム事業者の責任
プロバイダ責任制限法は2024年に大改正を受け、大規模プラットフォーム事業者(以下、「大規模PF」という)に対する規律が追加され、法律のタイトルも情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法、正式名称は「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」)に変更された。施行は2025年4月である。なお、プロバイダ責任制限法の従来の規定はそのままであり、ここまで説明してきた内容に変更はない。
この改正は、リアリティ番組に出演していたプロレス選手が誹謗中傷を苦にした見られる自死事件(テラスハウス事件)が2020年に発生して以降、積み重ねられてきた誹謗中傷対策の集大成であると見られる。その主眼は、従来のプロバイダ責任制限法が、民事損害賠償責任の免責を通じて削除を促してきたのに対し、利用規約に基づく削除対応の迅速化と透明化を目指した点にある。
改正法は、大規模PFを指定して様々な義務を課している。義務への対応にはコストがかかり、中小事業者には過度の負担となりうることや、被害が大きくなるのは主に大規模事業者であることから対象が限定されている。
大規模PFに課される義務は、大別して対応の迅速化に向けられたものと、運用状況の透明化に向けられたものとがある。
まず、対応の迅速化に向けられた義務としては、削除申出窓口や手続の整備・公表、十分な知識経験を有する者の選任等を含む削除申出への対応体制の整備、削除申出に対する判断を原則として14日以内の総務省令で定める期間内に申出者に通知することなどがある。
次に、運用状況の透明化に向けられた義務としては、削除基準の策定・公表、削除した場合の発信者への通知といったものがある。大規模PFは、法律上の義務として削除する場合などのほかは、削除基準にあらかじめ規定されている場合にしか削除を行うことができないこととされた。
これらの義務の履行を担保するために、大規模PFは、削除申出の受付状況、申出者や発信者に対する通知の状況などを毎年1回公表しなければならない。さらに、総務大臣に報告徴収、勧告、命令の権限が与えられており、届出・報告の義務違反や命令違反に対しては罰則が定められている。