情報の媒介者の責任
プロバイダ責任制限法
【プロバイダ責任制限法の呼称について】
プロバイダ責任制限法は、正式名称を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」という。
通称を「プロバイダ責任制限法」と呼ぶが、同法の条文の中に「プロバイダ」という文言はなく、「特定電気通信役務提供者」という語が用いられている。
【「プロバイダ」という語について】
「プロバイダ」とは、英語でproviderと書き、何かを「供給する者」、「提供する者」という意味となる。
一般的には、インターネットにおいて「プロバイダ」と言った場合には、インターネットへの接続サービスを提供する業者(ISP=インターネットサービスプロバイダ)を筆頭に、情報伝達の機能や場を提供する者・業者(SNSや電子掲示板など)や、インターネット上で各種コンテンツを提供する者(コンテンツプロバイダ)などが想定される。
※単に「プロバイダ」と言った場合は、ISPのことを指す場合が多い。
プロバイダ責任制限法で定義されている「特定電気通信役務提供者」と、一般的に用いられている「プロバイダ」という語が意味するものとの間には違いがあるので、注意が必要である。
【「特定電気通信役務提供者」に含まれるもの】
・インターネットサービスプロバイダ(ISP)
・ホスティングサービスプロバイダ(HSP)
・大学、地方公共団体、電子掲示板を管理する個人等
上記の「特定電気通信役務提供者」は、「他人の情報発信を媒介する役割を果たす者」(=情報の媒介者)であるという共通点を有する。
【本教材における「プロバイダ等」という語について】
前述のように、プロバイダ責任制限法で定義される「特定電気通信役務提供者」は、一般的にいう「プロバイダ」とは一致しない部分がある。具体的には、大学、地方公共団体、電子掲示板を管理する個人等は、一般的には「プロバイダ」とは呼ばれないが、「特定電気通信役務提供者」に該当する。
こうしたことを念頭に、本教材では、プロバイダ責任制限法の「特定電気通信役務提供者」のことを、単に「プロバイダ」と呼ぶのではなく、「プロバイダ等」と呼ぶこととする。
なお、繰り返しになるが、この「特定電気通信役務提供者」=「プロバイダ等」は、情報の媒介者であると言える。
※情報の媒介者ではない者については、一般に「プロバイダ」と呼ばれていたとしても、「プロバイダ等」には該当しない。例えば、インターネット上で各種コンテンツを提供する者(コンテンツプロバイダ)は、「プロバイダ等」には含まれない。
【プロバイダ等の法的責任】
違法情報が発信された場合、本来的には当該情報の発信者に責があるのだが、情報の媒介者たる「プロバイダ等」も、法的責任を負うことがあり得る。
違法情報が発信された場合、プロバイダ等は、削除請求や損害賠償請求、刑事責任などの法的責任を追及され得る。
<例>
HSPが管理するサーバーの電子掲示板等に他人の名誉を毀損する誹謗中傷が書き込まれた場合、プロバイダ等の削除義務や、民事の損害賠償責任が追及される
【プロバイダ等が法的責任を追及され得る理由(裁判所の判断)】
プロバイダ等は、権利侵害情報を自ら発信したわけではないが、それを削除する作為義務があるというのが裁判所の判断である。
ただし、プロバイダ等の作為義務については、いくつかの要素を考慮した上で判断される。
<例>
プロバイダ等に権利侵害情報を削除する作為義務があると認めなければ、被害者の救済ができないとなれば、プロバイダ等の作為義務があると判断される
【発信者と、被害を訴える者との間で】
もし、プロバイダ等に発信者の表現の自由を至上のものとして尊重させるようにしたら、 被害を訴える者の立場が弱くなるだろう。
もし、プロバイダ等に権利侵害のおそれがある情報を片っ端から削除させるようにしたら、正当な書き込みを権利侵害と誤って判断して削除してしまう可能性も増すだろう。
このため、プロバイダ等は、発信者と被害を訴える者との間で「板挟み状態」となる。
そこで、プロバイダ等の判断の負担の軽減のため、プロバイダ等の法的責任を規定した法律が制定された。言い換えると、プロバイダ責任制限法は、被害者の権利の救済と、表現の自由の尊重の両立をはかるべく制定されている。
【プロバイダ責任制限法の意義】
プロバイダ等が権利侵害情報を削除しなかった・した場合、一定要件を充たせばプロバイダ等の民事責任を免除する。(3条)
作為義務が生じるかどうかは別として、同法の定める一定要件を充たせばプロバイダ等は免責される。
ただし、責任が限定されるのは民事責任のみであり、刑事責任には直接適用されない。
【法律上の「特定電気通信」の定義】
「特定電気通信」とは、要は、インターネット上のウェブページや電子掲示板等。(SNSやスマートフォンのアプリも該当)
「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」のこと。
電子メールは1対1の通信なので特定電気通信に含まれずプロバイダ責任制限法の適用対象外。
同時に多数の者に送信されるメールマガジンも、個別のメールの集積のため、該当しないとされる。
不特定に受信されるが、放送は含まないと規定。