《 個人の権利侵害とプロバイダ責任 》 ◆プロバイダ責任制限法と民事責任
§ 特定電気通信および特定電気通信役務提供者
プロバイダ責任制限法の適用範囲を理解するために重要な用語として、特定電気通信および特定電気通信役務提供者というものがある。
特定電気通信とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法2条1号に規定する電気通信)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く)と定義されている(2条1号)。要するに、インターネット上のウェブページや電子掲示板等のことである。他方、同じくインターネットを利用するものであっても、電子メールは1対1の通信であるから特定電気通信に含まれず、プロバイダ責任制限法の適用対象とならない。メールマガジンのように同時に多数の者に送信される場合でも、個別のメールの集積であるから通常のメールと同様、特定電気通信に該当しない。また、不特定者によって受信されるものであっても、放送に該当するものは特定電気通信に含まれない。
特定電気通信役務提供者とは、特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう(2条3号)。特定電気通信設備とは、特定電気通信の用に供される電気通信設備のことである(2条2号)。要するに、営利・非営利にかかわらずウェブホステイング等を行うプロバイダ等や、第三者が自由に書込み可能な電子掲示板を運営している者のことである。いわゆるHSP事業者などに限らず、大学、地方公共団体、電子掲示板を管理する個人等も含まれる点に注意が必要である。冒頭にも述べたが、本章で「プロバイダ等」と呼んでいるのは、この特定電気通信役務提供者のことである。
なお、発信者にインターネットへのアクセスを提供するだけのISP(経由プロバイダ)が特定電気通信役務提供者に該当するかどうかについて、かつては議論があったが、最高裁は該当すると判断した(最一小判2010年4月8日民集64巻3号676頁)。