《 個人の権利侵害とプロバイダ責任 》 ◆プロバイダ責任制限法と民事責任
§ 削除しなかった場合の責任制限(3条1項)
プロバイダ責任制限法3条1項は、権利侵害情報による被害者に対する損害賠償責任をプロバイダ等が負う場合を次のように限定している。
- ① プロバイダ等が削除等の送信防止措置をとることが技術的な可能な場合であって、
- ② プロバイダ等が他人の権利を侵害されていることを知っていたとき、
- ③ または、プロバイダ等が当該情報の流通を知っていた場合であって、それによって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認める相当の理由があるとき、
である。
①+②または①+③以外の場合には、削除をしなくてもプロバイダ等の責任が生じることはない。②と③の違いは分かりにくいが、②は情報の存在を知っていただけでなく、それが権利を侵害することまで知っていたことを意味し、③は情報の存在自体は知っていたもののそれが権利を侵害することまでは知らなかったが、ただ、一定の注意を払えば権利侵害であると認識できたはずであるという場合である。
②にしても③にしても、情報自体の存在を知らない場合には責任が発生することはない。このことが間接的に意味するのは、自らの管理する掲示板等に権利侵害情報がないかどうかプロバイダ等がパトロールして常時監視する義務はないということである。被害者や法務省人権擁護機関などから通報(削除要請)を受けてからそれが本当に権利侵害情報に当たるかどうかを判断することになる。
また、注意が必要なのは、①+②または①+③の要件が充たされている場合に自動的にプロバイダ等の責任が発生するわけではないことである。これらの要件のほか、前述のプロバイダ等の作為義務違反や、その他の損害賠償責任に関する一般的な要件(因果関係など)が存在して初めて損害賠償責任が発生する。被害者(原告)にはこれらの要件の立証が求められることになる。

出典:総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000836901.pdf)