《 個人の権利侵害とプロバイダ責任 》 ◆プロバイダ責任制限法と民事責任
§ 削除した場合の免責
プロバイダ等が権利侵害情報だと判断して削除をした場合、当該情報の発信者に対して損害賠償責任を負う可能性があるが、プロバイダ責任制限法3条2項は、次の場合には責任は生じないとして免責事由を定めている。
- ① プロバイダ等が他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足る相当の理由があった場合。
- ② または、被害者から削除の申し出があったことを発信者に連絡して7日以内に反論がない場合。
もっとも、本項の規定は任意規定であり、契約(約款、利用規約)によって合理的な範囲でこれとは異なる定めをすることも可能である。例えば、健全性を謳うサイトにおいて、権利侵害情報の削除をより緩やかに認めるような利用規約を定めることもできる。この点は実際には重要であるが、それはさておき、以下では上記①②について簡単に説明を行う。
まず、①については、プロバイダ等の判断の負担が問題になる。例えば、名誉毀損を考えた場合、「他人の権利が不当に侵害されている」といえるためには、単に社会的評価を低下させるような情報発信があっただけではなく、その情報に公共性や公益目的がなく、または真実ではないなどの事情も必要である。プロバイダ等はこうした判断を求められることになり、「権利が不当に侵害されている」と考えて削除した場合でも、その判断に誤りがあり、かつそれについて十分な注意を払っていないとされる(「相当の理由」がないとされる)場合には、免責されず、発信者に対して責任を負う可能性があるのである。
このような判断の困難さは、名誉毀損(名誉権侵害)に限らず、その他の権利についても同様であるが、著作権関係と商標権関係のガイドラインは、判断の負担を大きく軽減するための仕組みを定めている。特に、信頼性確認団体を通じた削除請求について、プロバイダ等は形式的な判断で削除をすることが認められている。
信頼性確認団体とは、著作権関係ガイドラインを例にとれば、本来はプロバイダ等が行うべき著作権侵害の申出者の本人性確認、著作権者であることの確認、著作権侵害であることの確認といった判断をプロバイダ等に代わって適切に行うことができるものとしてプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会によって認定された団体である。著作権関係では、13団体が認定されている。商標権関係ガイドラインでも同様の仕組みがあるが、認定されているのは1団体のみである。
信頼性確認団体を経由した削除請求については、プロバイダ等は不当な権利侵害かどうかの実質的な判断を省略して、削除請求の書式等が整っているかといった形式的審査のみによって削除を行っても①の要件を充たすものと扱われる。もっとも、これはあくまでも業界の定めたガイドラインに基づく仕組みであるから、訴訟になった場合に裁判所が法的にこれに拘束されるわけではない。
他方、名誉毀損やプライバシー侵害については、誰もが被害者となりうるものであり、権利者団体のようなものが存在しないため、信頼性確認団体の制度は成立しない。ただ、名誉毀損・プライバシー関係ガイドラインでは、法務省人権擁護機関からの削除依頼に対しては、一定の簡単な事項の確認によって削除を行うものとしている。また、それ以外の場合には実質判断が求められるが、ガイドラインでは侵害の類型化を行って判断の負担の軽減を図っている。
次に、②については、プロバイダ等に権利侵害の有無等に関する実質判断は要求されず、被害者等から削除依頼を受けて発信者への照会を行い、7日以内に削除に同意しないという回答がなかった場合に削除が可能となる。