《 有害情報コントロールの実務 》
◆有害情報コントロールの事例研究(書籍出版との比較)
出版社Aは、ある作家の小説を出版しており、これを携帯電話用サイトでも配信しようと企画した。携帯電話事業者Bはこのコンテンツの配信を認めたが、携帯電話事業者Cはこれを拒否した。 この作品は、いわゆるボーイズラブ(Boys Love :通称BL)と呼ばれるジャンルであり、男性同士の性愛を描いた女性向けの内容だった。なお、出版社Aが携帯電話事業者BとCに配信を依頼したデータは同じであり、どちらかに表現の修正等を行うようなことはしていなかった。
なぜ同じコンテンツが携帯電話事業者ごとに異なる扱いを受けたのだろうか。上記で取り上げたコントロール手法の視点から説明する。
まず、作家と出版社(編集部)は、書籍を出版する前の執筆打合せの段階で、この作品の対象読者は誰か、何歳くらいの読者を対象としているのかについて検討する。あまりに過激すぎる内容だと違法と判断されて出版後に回収される可能性があり、また、有害の程度によってはゾーニングの対象となって、販売できる範囲が限定されてしまうことも考えられるからである。この段階で作者や出版社が行う自主規制がラベリングとレイティングである。
インターネットの登場以前であれば、作者と出版社は上記のような自主規制を行った上で作品を制作し、出版することができた。しかし、インターネット上での配信が可能になると、関係者にISP (Internet Service Provider) が加わることになる。ISPでは、主にブロッキングやラベリング、フィルタリングを行っている。
実務では、ISPはラベリングやフィルタリングの基礎となるネットスラングなどの情報を日々更新している事業者から購入し、その情報を基にそれぞれのISP独自のラベリングやフィルタリングの基準を設定している。そして有害情報を発信するユーザーは、日々このようなラベリングやフィルタリングの規制を回避すべく新しいネットスラングなどを発案するため、イタチごっこの状態にとなっている。そのような状況でISPがラベリングやフィルタリングの基準は外部に公開することは、日々の業務が無意味になってしまうため、自ずと非公開となってしまい、ISPごとに異なる基準で判断されることになる。その意味で、有害性の根拠や判断基準の客観性に問題があるともいえる。
この事例では、ラベリングの項目として、同性愛表現をBでは文化風俗と捉えて配信を認め、Cでは異常性愛として配信を認めなかったために、同じ作品でありながら、結果的に携帯電話事業者ごとに異なる対応になったのである。