《 インターネット上の海賊版への対策(令和2年改正版) 》
◆令和2年改正の背景
2018年頃漫画を著作権者の許諾なく、閲覧可能とする大規模サイトがアクセスを集め、出版業界は大きな損失を受けた。
一般的には、著作権侵害のコンテンツに対しては、著作権に基づき当該コンテンツを管理しているサイト管理者にコンテンツ削除を求めることができる。しかしながら、ここで問題となった海賊版サイトは、以下の2点により、著作権を行使することで問題のコンテンツを削除することが困難であった。
① コンテンツがアップロードされているサーバーが国外に所在し、かつ、その管理者が誰か不明であること
② 一般ユーザーのアクセス先のサーバーにはコンテンツは所在せず、上記①へのリンクが存在していること
このうち、①については、国外での権利行使が一般に困難であることに加え、権利行使の相手が不明な状態では権利行使ができないことは当然である。また②については、一般に、そのリンクによって画像等が直接閲覧できるイメージリンクであるとしても、著作権法の考え方では、リンクを設定する行為が著作権侵害とならないと解釈されており(リツィート事件知財高判平成30年4月25日)、このようなリンクのみで構成されているサイトに対してはその当時の著作権法では権利行使が困難であったという事情がある。
そこで、政府は、2018年4月、特に悪質な海賊版サイトに対するサイトブロッキングを接続プロバイダが自主的に行うことが可能だとする旨を公表した(平成30年4月知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」)。サイトブロッキングとは、ユーザーがインターネットサイトへのアクセスをしようとする際に、接続プロバイダにおいて、そのアクセス先を検知し、ブロッキング対象のサイトへアクセスしようとすることが判明した場合、そのアクセスをさせないようにするものであるが、その手段は通信の秘密を侵害する可能性があることが指摘されていた。児童ポルノサイトについては、その権利侵害の重大性に鑑み、慎重な検討の結果、従来児童ポルノサイトに限ってのみ、緊急避難として認められるとして、接続プロバイダが自主的に行っていたが、著作権侵害サイトについては、侵害される通信の秘密と、財産権である著作権を比較した場合、法益権衡の要件が満たされないと考えられていた。
結局海賊版サイトに対するサイトブロッキングは、激しい議論が惹起され、実際には、実施されなかったが、海賊版サイトからの保護として、著作権法が不十分な点が明らかとなった。