他者のコンテンツの利用
許諾なく著作物が利用できる場合
【著作権法が定める例外規定】
すでに述べたとおり、著作権法とは、著作者等の権利を保護すると同時に著作物の適正な利用による文化の発展を目的とするものである。全ての著作物の利用に対し権利者の許諾が必要とされた場合、著作物の利用が阻害される場合も存在するため、著作権法は、著作権者等の権利行使の対象とならない著作物の利用方法を定めている。
こうした例外規定には様々なものがあるが、大きく分けて以下の3層に分けられる。
・第1層:権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型(著作物を享受(観賞等)する目的で利用しない場合等-例えば、コンピュータの内部処理のみに供されるコピー、セキュリティ確保のためのソフトウェアの調査解析)
・第2層:権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型(新たな情報・知見を創出するサービスの提供に付随して、著作物を軽微な形で利用する場合-例えば、所在検索サービス、情報解析サービス)
・第3層:著作権の市場と衝突する場合があるが、公益的政策実現等のために著作物の利用の促進が期待される行為類型
上記のうち、第1層と第2層については、包括的・一般的な権利制限規定が設けられている。他方、第3層については、従来通り、個別具体的に定められることなっている。
※第1層に該当する著作物の利用としては、表現を享受する著作物としてではなくデータとして分析等に利用する場合が想定されており、例えば音楽データを利用しての音分析やAI開発のためのディープラーニングなどが挙げられる。
【第3層の権利制限の規定】
第3層の権利制限の規定について、主なものを記載すると、以下のようになる。
◆著作物の利用の性質による制限
・私的使用目的の複製
・付随対象著作物の利用
・視覚障害者等のための複製
◆公共上の理由あるいは非営利利用行為であることによる制限
・図書館等における複製
・教科用図書等への掲載
・営利を目的としない上映等
◆他の権利との調整あるいは著作物の利用促進のための制限
・引用
・時事の事件の報道のための利用
・公開の美術の著作物等の利用
【私的使用目的の複製について】
「私的使用目的の複製」は、著作権法の権利制限条項のうち、最も身近な規定といえる。
原則として、権利者の許諾なく著作物を複製する行為は禁じられているが、「私的使用目的の複製」に該当すれば、権利者の許諾なく複製することができる。
「私的使用目的の複製」が認められる場合というのは、個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときである。
インターネット上のコンテンツ利用に関して注意しなければならないのは、著作物をインターネット上にアップロードして誰でも閲覧できるような状態にすることは、自動公衆送信行為に当たるため、「私的使用目的の複製」が認められないという点である。
また、私的使用目的の複製であっても著作権者の許諾なく行うことが違法となる例外的場合がある。それは、著作権者の許諾なくアップロードされた違法コンテンツを、違法コンテンツだと知りながらダウンロードする行為である。この違法コンテンツのダウンロードは、刑事罰の対象となる。
※違法コンテンツを違法と知りながらダウンロードする行為については、かつては対象が音楽・映像に限定されていたが、漫画等も含む著作物一般に拡大されている。
【引用について】
「私的使用目的の複製」と同様に、著作権法の権利制限条項の一つとして「引用」がある。
著作権法は、公表された著作物を、公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われる場合には、著作物を許諾なく利用することができる旨を規定している。
この「引用」に関する権利制限条項は、引用する側の学問・表現の自由と、引用される側(著作者)の権利を調整するものであるといえる。
【引用に関する著作権法の規定】
著作権法では、「引用」について、適用される利用形態を限定しておらず、複製、上演、放送、自動公衆送信などあらゆる利用形態に適用される。
引用する場合には、出所を明示しなければならない。(ただし、出所を明示さえすれば全て正当な引用とみなされるというわけではない)
【明瞭区分性と主従性】
著作権法の条文に書かれてはいないが、裁判例には、適用な引用が認められる要件として、「明瞭区分性」と「主従性」が挙げられている。
・「明瞭区分性」:引用された著作物と他の部分が明瞭に区分されること
・「主従性」:引用するものと引用されるものとの間に主従の関係があること